勝率7割5分8厘の男が語る!野球指導者45の心得
高校野球界の必殺仕事人とでも言いましょうか、全国行脚で定期的に高校の野球部へ赴きコーチングをされる方、日刊ゲンダイにて定期的に「鬼の遺言」を連載されている元横浜高校の小倉先生が有名ですが、今回の本の作者遠藤友彦氏も全国区の仕事人になるのでしょう。
札幌清田高校野球部の扇の要として1年生よりご活躍されました。
南北海道地区の選手権札幌支部予選、全道大会出場枠がまだ札幌支部3校だった時代に、北海高校や東海大四高校とともに全道大会に出場していた清田高校でご活躍された選手でした。
札幌清田高校野球部は甲子園にこそ出場しておりませんが、全道大会で9回裏2アウトから6点差をひっくり返しサヨナラゲームを飾る試合をするなど、公立高校ながら強豪高校顔負けの打撃のチームでした。
「清田高校で野球をする」と有望な選手が多数集まった時代の札幌清田高校野球部、北海道の年配の高校野球ファンの間では、清田高校は有名なチームであったと記憶しております。
その後は社会人野球のNTT北海道に就職され、都市対抗野球大会などでも長年にわたりご活躍。
NTT北海道在籍当時には用具、特にキャッチャーミットの構造にこだわりをお持ちで、野球メーカー「ZETT」のご厚意もあり、遠藤氏独自のミット型「エントモモデル」がZETTのカタログに掲載されるなど、用具の機能についても社会人野球の選手ながら考案された選手でもありました。
引退後は学生野球の発展に貢献、日本全国を周り様々な学校のサポートをされております。
さて、気になる本の内容の方ですが、著者のご自身の体験や全国でサポートをしているチームの成功談や失敗談を元に学んできたことを執筆されているのかなという感じです。
この本のいいところ
チームスポーツとしての野球をベースに「組織力」で戦うための理論を根幹として述べている点が印象に残りました
。能力の高い選手を集めて各々の個性で戦うのではなく、組織として、選手の個々の能力に応じた役割分担をしっかりと構築し、選手の好不調に影響を受けにくい「チーム戦」とするためのモデルケースを細かく指摘されております。
監督とはコーチとは指導者とはこうあるべきだ、という遠藤氏が今日まで全国各地でチームをサポートしていく中で培った理論を元に、明確な役割分担とチームとしてのルールや決まり事を徹底し、目標とされる大会当日に向けて「組織」としてどのように準備をしていくかという流れで構成されております。
目標となる大会(夏の選手権大会)に向けて、指導者として求められる言動や立ち居振る舞い、長期計画に沿った練習プランの構築、指導者や選手を応援してくれる父母や第3者の方への配慮、選手の自主性の延ばし方や練習試合の意義や活用の仕方などにも触れております。
すべての日常が目標達成につながっているという遠藤氏の理念が詰まった内容となっております。
さらに野球に限らずスポーツなどで特待生として入学した選手がいたとしても、その後の進路で「その競技を続けてご飯が食べられるわけではない」、選手としての時間が過ぎれば、仕事をして暮らしていかなければならない現実があるから、部活以外のことも学んでいかなければならないという、野球以外のことにも取り組まなければならない部分を強調。
野球の向上のためにも、自身の人生そのもののためにも、普段からの生活を心がけながら日々の練習に取り組まなければならないことを自身の経験を交え懇々と語っております。
この本の悪いところ
「意図的に重要なことを書いていない」ような気がします。
というのもエントモ理論の神髄は「指導者バイブル」と「遠藤氏のチームサポート」を組み合わせて習得できるような設定になってます。
内容的には1~3章までは具体的なことは記載されてませんし、第4章についても何で?こうなるのかという前提が詳しく記入されてません。
指導者バイブルを読んで気になった方が遠藤氏のサポートを受けて初めて各章の答えを教えてもらえるのではないでしょうか。
本を通じて自信をPRする手法は商売上手といえば商売上手ですが、濃い内容のものを期待していただけに、もう少し出し惜しみせず書いていただいてるとさらによかったと感じました。
社会人野球出身者の方だけあって「勝ちに対するこだわり」が強い傾向にあるような気がします。
一発勝負の都市対抗大会、野球でご飯を食べている社会人野球の選手の立場とすれば結果が伴わなければ、現役選手を退かなければならず、つねに引退と背中合わせの環境です。
それだけに自分の管理はもちろん、自チームのライバルとのポジション争いや対戦相手の弱点やクセ、采配の傾向などを捕手という立場上、特に事細かに分析しなければならない立場にあり、大会前までに抑えなければなりません。
プロ野球のように勝っても負けても100試合以上あるリーグ戦と違い、決められた戦力でライバルチームの戦力が、たとえ自チームより格上でも都市対抗大会を勝ち抜かなければならないわけですから、対戦相手をけむに巻いたり、偽の情報を流して相手を偽ったりと試合前から駆け引きが始まっていると遠藤氏がお考えになることはもっともなところで、本作品でも勝つための手段について様々な手段を講じる傾向が感じられました。
勝利至上主義はひとつの考え方ですので否定しませんが、この野球が高校野球や野球を始めたばかりの小学生・中学生の指導者にとってふさわしいかどうかには疑問が残るし、始めたばかりの選手にとって楽しいのかどうかがよくわかりません。
「社会人野球での知識」+「教育としての人間教育のための野球」の2つを合わせた内容となっておりますが、野球というスポーツを通して「人生の修行」や「勝利するためのスキル」が主で、スポーツとしての野球の楽しさや醍醐味も伝わってくるとなおよかったと感じました。