戦前より長らく野球用具を作り続けてきた久保田運動具店さんも今年で80年を迎えました。
その80周年を記念して、かつて使用していたグラブ皮革と芯材の素材を当時のものにできる限り近づけて復刻させたグラブが入荷してきました。
80年の歴史の中で、初めに久保田スラッガーが大いに流行した時、「第一次久保田ブーム」の時のラベル、オールドファンをして「青ラベル」と呼ばれたものを採用、どこかのビールの名称に似たものを復刻させております。
現行のグラブとの違い
現在発売されている軟式グラブと復刻版軟式グラブの大きな違いはグラブ皮革の染め方が違います。
そこで詳しいことを久保田運動具店のイレブン担当者に問い合わせましたところ、以下のような違うことを教えていただきました。
久保田スラッガーのグラブ皮革の染め方として、通常の軟式グラブと呼ばれるものは皮革の奥まで染めこみます。
通常の硬式グラブと呼ばれるものは染料を皮革の半分ほどまでしか染み込ませません。
なぜ、硬式用と軟式用で染料の染み込ませ方が違うかというと、久保田運動具さんがグラブで取り扱う皮革の特性として、染料を染み込ませれば染み込ませるほど皮革が柔らかくなる性質があるそうです。
よって、かたい硬式のボールをとるグラブとして「耐久性の面」と「硬いボールを扱う上で柔らかくなりすぎてボールの強さに革が負けることのないよう、ある程度の革の硬さを残すため」に染料を皮革の半分ほど抑えてあるとのこと。
一方、材質がゴムの軟式ボールを扱うグラブとしては皮革が硬いと強い打球のゴムボールを弾きやすくなるので、軟式用のグラブは「打球の衝撃を吸収しやすくする」ために、皮革の中まで染み込ませて十分に柔らかくする必要性があるため、軟式グラブ皮革は中までしっかりと染めこむそうです。
(写真左から:外野手用軟式グラブ・内野オールポジション用硬式グラブ・セカンド・ショート用軟式復刻版グラブ・)
硬式用のグラブ皮革と軟式用のグラブ皮革の染め方を変えているのは、ルールは同じ「野球」でも、「硬式ボールを捕る」と「軟式野球ボールを捕る」グラブとして考えた場合、それぞれの野球が求める扱いやすいグラブの性質は全く異なるものであるということを、久保田運動具店のグラブ職人さんはいち早く気が付いたためです。
久保田スラッガーが誇るグラブ職人、2012年、現代の名工150名に選ばれ、翌年2013年には黄綬褒章を受賞された江頭重利さんは自身でオリジナルブランド「軟式革命」を作り、江頭さんの考える理想の軟式野球グラブを作成されたこともございます。
そのくらい久保田運動具店は軟式グラブに対する考え方がしっかりしており、軟式野球用グラブは硬式グラブよりも質の落ちる革と柔らかい心材というものではなく、「軟式には軟式ボールにあうグラブの作り方」「硬式には硬式のボールに合うグラブの作り方」をそれぞれ分けて考えることに重点を置いてきました。
軟式野球用グラブに対するこだわりは江頭さんをはじめ、長きにわたってクボタスラッガーブランドを守り続けてきた職人さんの叡智でしょう。
さて、久保田スラッガーの軟式グラブへのこだわりについて少々長い説明となりましたが、通常の久保田スラッガー軟式用グラブと今回の復刻版軟式グラブの違いは、今回の復刻版のグラブ皮革は染料が半分ほどしか染み込ませていない硬式ボール皮革仕上げのもの、硬式風仕上げの皮革を使用しております。
皮革は軟式グラブに使用する皮革ですが、革の染め方が硬式グラブの工程なので「硬式風」の皮革となります。
現在軟式グラブよりも硬めの仕上げですが、耐久性と染料が半分ですので革の風合いが増します。
現在のスラッガー軟式グラブの柔らかすぎが気になる選手には程よい良いグラブであると言えると思います。